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開発の経緯
ソリリス®〔一般名:エクリズマブ(遺伝子組換え):以下、エクリズマブ〕は、米国Alexion Pharmaceuticals, Inc.において遺伝子組換え技術によって作製されたヒト補体成分C5(C5)を標的とするヒト化モノクローナル抗体です。約30,000種以上のマウス抗ヒトC5モノクローナル抗体より見出されたm5G1.1に由来します。免疫原性及びエフェクター機能を抑えるため、ヒトフレームワーク領域及びヒト定常領域にマウス相補性決定領域を移植してm5G1.1mAbをヒト化し、さらにFc受容体結合能及び補体活性化能を除去することでソリリス®が作製されました。ソリリス®は、C5と特異的に結合し、補体活性化におけるC5からC5a及びC5bへの開裂を阻害することで、終末補体を強力かつ選択的に阻害します。
発作性夜間ヘモグロビン尿症(paroxysmal nocturnal hemoglobinuria:以下、PNH)は、造血幹細胞のphosphatidylinositol glycan-A(PIG-A)遺伝子の後天的な突然変異によりGlycosylphosphatidylinositoI(GPI)アンカー型終末補体制御因子CD59が欠損した血球がクローン性に増殖することで発症する、稀な重症の溶血性疾患です1, 2)。CD59は、補体カスケードにおいて終末補体複合体(C5b-9)の形成を阻害し3, 4)、赤血球を補体の攻撃から保護しています。しかし、PNH患者ではCD59が欠損しているため持続的に終末補体を介した血球破壊を受け血管内溶血を起こします。
ソリリス®の臨床評価は、1997年に米国で関節リウマチなどPNH以外の疾患患者を対象に開始され、忍容性が確認されたことから、2002年より英国においてPNH患者を対象としたパイロット試験(C02-001試験)が開始されました。その後、海外第Ⅲ相臨床試験(C04-001試験:TRIUMPH試験、C04-002試験:SHEPHERD試験等)においてPNHに対する有効性及び安全性が検討され、2007年3月、米国において世界で初めて承認されました。
国内では2007年より実施されたPNHに対する臨床試験において海外と同様の有効性及び安全性が検討され、「発作性夜間ヘモグロビン尿症における溶血抑制」を効能又は効果とする新規医薬品として2010年4月に製造販売承認を取得し、6月に発売しました。
非典型溶血性尿毒症症候群(atypical hemolytic uremic syndrome:以下、aHUS)は、補体制御異常により溶血性貧血・血小板減少・急性腎障害が主徴の血栓性微小血管症(thrombotic microangiopathy:TMA)を呈する重篤で稀な疾患です。予後は極めて不良で、診断から1年以内に腎不全、透析または死亡に至る可能性が高いことが知られています5)。
ソリリス®のaHUSに対する臨床評価は2009年より欧米で開始され、海外第Ⅱ相臨床試験2試験(C08-002試験、C08-003試験)及びレトロスペクティブ試験(C09-001試験)の結果に基づき、2011年9月に米国、2011年11月にEUにて承認されました。
国内では、2011年4月以降、日本人aHUS患者救命のため医師個人輸入により本剤の投与がなされ、国内における有効性・安全性データから海外臨床試験成績を外挿する妥当性が裏付けられたことから、2012年10月に適応追加を申請し、2013年9月に「非典型溶血性尿毒症症候群における血栓性微小血管障害の抑制」の効能又は効果の追加承認を取得しました。
全身型重症筋無力症(重症筋無力症;myasthenia gravis:以下、MG)は、制御不良な終末補体の活性化により神経筋接合部(NMJ)に主として抗アセチルコリン受容体抗体が結合することで引き起こされる稀な後天性自己免疫性神経筋疾患で、神経筋炎症とそれに続発する臨床所見が眼筋障害の有無にかかわらず全ての随意筋に認められます。
ソリリス®の全身型MGに対する臨床評価は、従来のMG治療法を適切に受けたにもかかわらず臨床症状が持続する難治性の全身型MG患者を対象として、2009年より海外第Ⅱ相臨床試験(C08-001試験)が開始されました。
その後、第Ⅲ相国際共同臨床試験2試験(ECU-MG-301試験:REGAIN試験、ECU-MG-302試験:REGAIN継続試験)で本剤の有効性と安全性が検討され、2017年8月に欧州で「抗アセチルコリン受容体抗体陽性の難治性全身型重症筋無力症」、同年10月に米国で「抗アセチルコリン受容体抗体陽性の全身型重症筋無力症」の効能又は効果が追加承認されました。国内では、2017年12月に「全身型重症筋無力症(免疫グロブリン大量静注療法又は血液浄化療法による症状の管理が困難な場合に限る)」の効能又は効果の追加承認を取得しました。
視神経脊髄炎スペクトラム障害(neuromyelitis optica spectrum disorder:以下、NMOSD)は、視神経炎又は横断性脊髄炎の再発を特徴とする極めて稀な重度の中枢神経系の自己免疫性炎症性疾患です。神経障害が段階的に蓄積され、疾患の経過は予測不能です。血清中の抗アクアポリン4(aquaporin-4、AQP4)抗体が中枢神経のアストロサイト表面に高発現しているAQP4に結合し補体を活性化することで引き起こされる補体依存性細胞傷害が主たる病態です。
2009年10月よりNMOSDに対するソリリス®使用の概念実証(Proof of Concept)試験として、抗AQP4抗体陽性のNMOSD成人患者14例を対象とした非盲検医師主導型試験が海外にて行われ、NMOSDに対する本剤の治療効果を示す予備的なエビデンスが得られたことから、2014年4月より第Ⅲ相国際共同臨床試験(ECU-NMO-301試験、及びECU-NMO-301試験の継続試験であるECU-NMO-302試験)を開始しました。ECU-NMO-301試験の結果に加え、ECU-NMO-302試験の中間解析においてNMOSD患者におけるエクリズマブの有効性及び安全性が検討され、さらに同試験に含まれる日本人患者集団で同様のデータが得られたことから、欧州では2019年1月に、米国では同年2月に「抗AQP4抗体陽性のNMOSD成人患者に対する治療」の適応追加が申請され、米国では2019年6月、欧州では2019年8月に承認されました。国内では、2019年11月に「視神経脊髄炎スペクトラム障害(視神経脊髄炎を含む)の再発予防」の効能又は効果の追加承認を取得しました。
なお、ソリリス®は、2019年10月現在、PNHに対して米国、EU、カナダ、オーストラリアなど世界51ヵ国で、aHUSに対して米国、EU等世界50ヵ国で、難治性全身型MG又は全身型MGに対して米国など世界39ヵ国で、NMOSDに対して33ヵ国で承認されています。
また、ソリリス®は優れた医薬品に対して授与されるPrix Galien(プリ・ガリアン賞)を、2008年に米国、2009年にはフランスで受賞しています。
1) Yamashina M, et al. N Engl J Med 1990; 323: 1184-1189
2) Motoyama N, et al. Eur J Immunol 1992; 22: 2669-2673
3) Hill A, et al. Blood 2006; 108: Abstract 985
4) Parker C, et al. Blood 2005; 106: 3699-3709
5) Caprioli J, et al. Blood 2006; 108: 1267-1279