治療

治療の流れ

急性増悪期の治療(初発含む)

1.中枢神経系炎症性脱髄疾患の急性増悪期の治療のQ&A
【Q1-1】 MS、NMOSD、MOGAD、ADEMの急性増悪期(初発を含む)はどう治療するか?

回答
  • いずれの疾患もステロイドパルス治療が第一選択である。症状の改善が乏しい場合は、各疾患により対応が異なり、次のとおりである。
  • MSではステロイドパルス治療を1~2クール追加し、それでも奏効しない場合は血漿浄化療法(plasmapheresis:PP)を試みる。
  • NMOSDでは、早めにPPやIVIgを行う。重症例に対してはできるだけ早くPPを検討する。
  • MOGADやADEMでは、NMOSDに準じて治療を行う。

一部のIVIgはNMOSDに対して本邦未承認

背景・目的

後遺症を残さないために、できるだけ早く適切な治療を行うことが重要である。

日本神経学会 監、「多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン」作成委員会
編:多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン2023、p.150、2023、医学書院.
[利益相反:本書籍の著者にアレクシオンファーマ合同会社より講演料、研究助成金を受領している者が含まれる。]

再発予防(進行抑制)の治療

3.NMOSDの再発予防治療のQ&A
【Q3】 NMOSDの再発予防はどうすべきか?

回答

NMOSDの急性期治療終了後に速やかに再発予防治療を開始し、次に再発を起こさないようにする。再発予防治療には、経口免疫抑制薬(アザチオプリン、タクロリムス、ミコフェノール酸モフェチルなど)、生物学的製剤(エクリズマブ、サトラリズマブ、イネビリズマブ、リツキシマブ)を用いる。経口副腎皮質ステロイド薬を併用する場合は、必要最小限にとどめ、漫然と中用量以上を継続することは避ける。なお、AQP4抗体陰性例では、上記の生物学的製剤は使用しない。

一部の免疫抑制療法は本邦未承認であるが、アザチオプリンはNMOSDに保険使用が認められている

背景・目的

NMOSDの再発予防の根幹は二度と再発させないことであり、その治療選択には、安全性、有効性、費用対効果を含めた視点が重要である。

解説・エビデンス

AQP4抗体陽性NMOSDに対して、システマティックレビューでは、リツキシマブは経口免疫抑制薬(アザチオプリンやミコフェノール酸モフェチルなど)と比して安全性・有効性のエビデンスが多く、日本では医師主導臨床試験で有効性が示されている。エクリズマブ、サトラリズマブ、イネビリズマブも、日本を含む国際共同二重盲検試験において高い安全性・有効性が示されている。抗体製剤は高価であり、その使用上の注意点としては、第Ⅰ章「3.各治療概要」の該当項,CQ4および「資料 CQ およびQ&AをもとにしたAQP4抗体陽性MOSDの治療アルゴリズム」も参照されたい。
経口副腎皮質ステロイド薬は安価であり、経験的に有効性が広く知られているが、質の高いエビデンスに乏しい。経口副腎皮質ステロイド薬単剤治療での無再発率は10年間で46.5%と比較的低く、副腎皮質ステロイド薬使用に伴う有害事象およびその予防のために、必ずしも費用対効果は高くない。また、主に経口副腎皮質ステロイド薬単剤治療を受けたコホート研究での検討で,再発後1年以内は再発が群発する傾向(再発クラスタ一期)があり、かつ、再発間欠期が長くなるほど再発率が低下することが認められ、再発後1年以内は強力な再発予防治療を行う必要性が示されている。経口免疫抑制薬〔アザチオプリン(2~3mg/kg/日)、タクロリムス(血中トラフ値5~10ng/mLで維持)、シクロスポリン(150mg/日)、ミコフェノール酸モフェチル(1,000~3.000mg/日)など〕の安全性・有効性は、生物学的製剤に劣るが、費用対効果に優れている。経口免疫抑制薬の安定した効果発現には数力月を要するため、迅速に効果が発現する経口副腎皮質ステロイド薬を併用する。併用する経口副腎皮質ステロイド薬は少量~中用量(0.3~0.5mg/kg/日)で開始する。経口副腎皮質ステロイド薬使用に伴う有害事象の回避のために、治療開始後数力月~半年を目途に漸減を開始する。経口副腎皮質ステロイド薬単剤の場合は、緩徐な漸減(1~2カ月ごとに1mg/日減程度で、漸減開始1年後で15mg/日、漸減開始2年後で10mg/日以下を目安に漸減)が比較的安全とされるが、併用の場合は、より積極的な漸減(漸減開始1年後で10mg/日以下まで漸減)が可能とされ、そこからさらなる漸減~中止を目指しうる。既に経口免疫抑制薬や経口副腎皮質ステロイド薬の使用で再発なく安定している場合には、即時の治療変更は不要であるが、副作用や症状再燃に注意し、その懸念がある場合には適宜治療方針を再考する。
AQP4抗体陰性 NMOSDでは、サトラリズマブ、イネビリズマブの臨床試験において有意な治療効果は認められず、エクリズマブ、リツキシマブの臨床試験では治療についての検討がなされていない。

一部の免疫抑制療法は本邦未承認であるが、アザチオプリンはNMOSDに保険使用が認められている

3.NMOSDの再発予防治療のQ&A
【資料】 CQおよびQ&AをもとにしたAQP4抗体陽性NMOSDの治療アルゴリズム

一部の免疫抑制療法は本邦未承認であるが、アザチオプリンはNMOSDに保険使用が認められている

解説

AQP4抗体陽性NMOSDは急性期治療終了後に速やかに再発予防治療を開始し、再発を起こさないようにする。AQP4抗体陽性NMOSDに関しては経口免疫抑制薬(経口免疫抑制薬の安定した効果発現には数カ月を要するため、その間、迅速に効果が発現する経口副腎皮質ステロイド薬を併用する)、もしくは生物学的製剤で開始するが、生物学的製剤を使用する患者については十分に検討を行う。経口免疫抑制薬(に加えて少量の経口副腎皮質ステロイド薬を使用する場合あり)で再発が抑制できなければ生物学的製剤へ、生物学的製剤で再発が抑制できなければ、別の生物学的製剤への変更を行う。
なお、個々の患者の状況は異なるため、すべてにおいてこのアルゴリズムに従う必要はなく、それぞれの患者に対し適切な時期に適切な薬剤選択を患者、家族、他の医療スタッフと相談して決めていくことが重要である。

日本神経学会 監、「多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン」作成委員会
編:多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン2023、p.196-199、2023、医学書院.
[利益相反:本書籍の著者にアレクシオンファーマ合同会社より講演料、研究助成金を受領している者が含まれる。]

抗体製剤

NMOSDの発症過程で起こるさまざまな免疫病態に対し、特異的に作用する分子標的薬を用いた再発予防治療を行います。
組織傷害を来す補体C5に作用するeculizumabやravulizumab、形質芽細胞の活性化に重要なIL-6受容体に作用するsatralizumab、B細胞に発現するCD20に作用するrituximab、同じくB細胞に発現し形質細胞にも発現するCD19に作用するinebilizumabがあります。