診察の流れ

検査

NMOSDの診断は、抗AQP4抗体の測定が重要です。さらに、NMOSDの主要臨床症候の把握、他疾患の可能性の除外が必要です。ここでは、NMOSDの診断に必要な検査について、多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017での記載を紹介します。

血液検査

中枢神経系炎症性脱髄疾患の診療における血液検査の目的には、特異的診察や合併症の検索、鑑別診断、疾患活動性の評価、治療法の選択や副作用予防、治療効果判定などがあります。どのような血液検査を行えばよいかについての十分なエビデンスを有する研究はなく、主にexpert opinionとして推奨が提示されています1)
NMOSDの診断のために実施する血液検査について、多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017では下記のように記載されています。

CQ6-2 中枢神経系炎症性脱髄疾患の診療にはどのような血液検査を行えばよいか?
(第6章 検査、6.2 血液検査)

推奨

視神経脊髄炎(neuromyelitis optica:NMO)の診断のために抗アクアポリン4(aqua porin-4:AQP4)抗体を測定することを推奨する【1A+】。
中枢末梢連合脱髄症(combined central and peripheral demyelination:CCPD)の診断のために抗neurofascin 155抗体を測定してもよい【2C+】。
多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)の治療薬の選択にあたっては血清Sema4Aを測定してもよい【2C+】。
ナタリズマブ導入前には抗JCウイルス(John Cunningham Virus:JCV)抗体を、フィンゴリモド導入前には抗水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella zoster virus:VZV)抗体を測定することを推奨する【1A+】。
免疫抑制療法を開始する前にB型肝炎ウイルス(hepatitis B virus:HBV)のスクリーニングを行うことを推奨する(図1参照)【1A+】。
ナタリズマブの効果判定のためには、抗ナタリズマブ抗体を測定してもよい【2C+】。

日本神経学会 監修. 多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017. 医学書院, p85

1)日本神経学会 監修. 多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017. 医学書院, p85

画像検査

MRI検査の目的は、中枢神経系炎症性脱髄疾患における急性期および慢性期の症候性のみならず、無症候性の中枢神経病変を検出し、病変の部位、数、大きさ、信号強度、造影の有無とその分布などから診断に役立てることです。また、病変の経時的変化や病理学的特徴、予後の予測、疾患修飾薬(disease-modifying drug DMD)の投与前後で比較して治療効果を判定することなどが挙げられます2)
日常診療において MRI検査で利用される通常のMRI撮像法は、T2強調画像、FLAIR(fluid-attenuated inversion recovery)像、T1強調画像、ガドリニウム(Gd)造影像があります3)
NMOSDのMRI画像の特徴について、多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017では下記のように記載されています。

CQ6-1-3 中枢神経系炎症性脱髄疾患のMRI画像の特徴は何か?
(第6章 検査、6.1 画像検査)

回答

多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)では大脳白質の卵円形病変(ovoid lesion)、脳幹、脊髄や視神経にT2高信号病変がみられ急性期には造影される。大脳では無症候性病変が多いが、徐々に脳萎縮が進行する。抗アクアポリン4(aquaporin-4:AQP4)抗体陽性視神経脊髄炎(neuromyelitis optica:NMO)では、3椎体以上の長大な脊髄病変や視交叉病変、延髄最後野の病変などが特徴である。急性散在性脳脊髄炎(acute disseminated encephalomyelitis:ADEM)では脳白質や深部灰白質に病変が散在する。

日本神経学会 監修. 多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017. 医学書院, p82

2)日本神経学会 監修. 多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017. 医学書院, p77
3)日本神経学会 監修. 多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017. 医学書院, p79

髄液検査

中枢神経系炎症性脱髄疾患の診断は、臨床症状、MRI画像、血液検査などで確定できないことが多いため脳脊髄液検査を行い、細胞数、タンパク、オリゴクローナル IgG バンド(oligoclonal IgG bands:OB)、IgG index、ミエリン塩基性タンパク (myelin basic protein:MBP)などの所見を参考に診断します。脳脊髄液検査はほかの中枢神経系炎症性脱髄疾患との鑑別を含めた診断に必要になります4)
NMOSDにおいて特徴的な脳脊髄検査の所見について、多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017では下記のように記載されています。

CQ6-3-2 中枢神経系炎症性脱髄疾患において特徴的な脳脊髄液検査所見は何か?
(第6章 検査、6.3 髄液検査)

回答

多発性硬化症 (multiple sclerosis:MS) では、IgG 増加、IgG index の上昇、オリゴクローナル IgG バンド (oligoclonal IgG bands:OB) の出現がみられる。細胞数は急性期に軽度の単核球増多 (<50/μL) がみられることもある。 総タンパクは急性期に増加することもあるが軽度にとどまる。視神経脊髄炎 (neuromyelitis optica:NMO) では、MS とは異なる特徴として細胞数増加 (>50/μL) がみられ、 多形核白血球が増加することもある。OBの検出率は低い。脳脊髄液中のグリア線維性酸性タンパク (glial fibrillary acidic protein:GFAP) は中枢神経におけるアストロサイト障害を反映し NMO の急性期で上昇する。ミエリン塩基性タンパク (myelin basic protein:MBP) は、MSや急性散在性脳脊髄炎 (acute disseminated encephalomyelitis:ADEM) の急性期に上昇するが、脱髄を生じるすべての疾患で増加するため、ほかの疾患との鑑別に用いることはできない。

日本神経学会 監修. 多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017. 医学書院, p91

4)日本神経学会 監修. 多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017. 医学書院, p89

神経生理学的検査

NMOSDなどで臨床症状を呈さず、MRIなどの画像で異常が指摘できない潜在性病変の検出を目的として、視覚誘発電位(visual evoked potential:VEP)、聴性脳幹反応 (auditory brainstem response:ABR)、体性感覚誘発電位 (somatosensory evoked potential:SEP)、運動誘発電位 (motor evoked potential:MEP)などの神経生理学的検査が行われます5)
NMOSDにおいて特徴的な神経生理学的検査の所見について、多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017では下記のように記載されています。

CQ6-4-2 中枢神経系炎症性脱髄疾患の神経生理学的検査ではどのような異常が認められるか?
(第6章 検査、6.4 神経生理学的検査)

回答

視覚誘発電位 (visual evoked potential:VEP) では P100の潜時延長や振幅低下が認められる。自覚的な視力低下やMRI画像異常がはっきりしない例、多発性硬化症 (multiple sclerosis:MS) の臨床診断が未確定な症例でも異常が検出されることがある。視神経脊髄炎 (neuromyelitis optica:NMO)ではMSと比較して P100 の誘発困難例が有意に多い。
聴性脳幹反応 (auditory brainstem response:ABR) ではⅢ波あるいはV波の消失、I-Ⅲ波あるいはI-V波の延長を認める。
上肢体性感覚誘発電位 (somatosensory evoked potential:SEP) では第7頸椎棘突起 (N13) や第12胸椎棘突起 (N20) の遅延や消失、下肢 SEP では N20 や足感覚野上の頭皮 (P37) の遅延や消失がみられる。N13-N20の潜時差、およびN20-P37 の潜時差は中枢感覚伝導時間 (central sensory conduction time:CSCT) と呼ばれ、CSCTの遅延は脱髄評価に重要である。
上肢運動誘発電位 (motor evoked potential:MEP) では頸部刺激と対側運動野刺激、下肢では第4腰椎部 (L4) 刺激と対側運動野刺激での立ち上がり潜時の差が中枢運動伝導時間 (central motor conduction time:CMCT) と呼ばれる。MSではCMCTの遅延や波形異常、運動野刺激での反応消失を認める。
CSCTやCMCTの遅延は中枢神経系の脱髄評価に有用であるが、末梢神経障害や脊椎症の影響を考慮する必要がある。

日本神経学会 監修. 多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017. 医学書院, p96

5)日本神経学会 監修. 多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017. 医学書院, p94

その他の検査

NMOSDの診断や治療効果を評価する目的で眼科的検査が施行されます。
多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017では下記のように記載されています。

CQ6-5 中枢神経系炎症性脱髄疾患で行うべき眼科的検査にはどのようなものがあるか?
(第6章 検査、6.5 その他の検査)

推奨

中枢神経系炎症性脱髄疾患における視神経炎の診断と治療効果判定のために、視力検査、視野検査、眼底検査を行うことを推奨する【1C+】。
中枢神経系炎症性脱髄疾患における視神経炎の炎症性脱髄または軸索変性を評価するために光干渉断層計(optical coherence tomography:OCT)検査を行うことを推奨する【2A+】。
中枢神経系炎症性脱髄疾患における視神経炎の急性増悪期の早期診断と治療効果判定に中心フリッカー〔視野中心部の限界フリッカー(critical flicker frequency、critical fusion frequency:CFF)〕測定を行ってもよい【2C+】。

日本神経学会 監修. 多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017. 医学書院, p98

診断

視神経脊髄炎の診断は、2006年にWingerchukらにより発表されたNMO診断基準が用いられてきました。この診断基準では、視神経炎、急性脊髄炎どちらも有する必要がありました6)。しかし、抗AQP4抗体陽性でも視神経炎もしくは急性脊髄炎いずれか一方のみを呈する症例、視神経炎や脊髄炎を呈しているにもかかわらず抗AQP4抗体陰性である症例が存在します。近年ではそのような症例を含めてNMOSDと呼ぶようになってきました。

6)Wingerchuk DM et al. Neurology 2006; 66: 1485-1489.

診断基準

NMOSDの診断について、多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017では下記のように記載されています。

CQ7-2 視神経脊髄炎はどのように診断するか?
(第7章 診断 7.2 視神経脊髄炎)

推奨

2006年にWingerchukらが提唱した診断基準を用いて診断することが推奨されている【1C+】。この診断基準を満たさない症例でも抗アクアポリン4(aquaporin-4:AQP4)抗体陽性で急性炎症性中枢性病変を伴う場合は、ほかの疾患が除外されれば、視神経脊髄炎(neuromyelits optica:NMO)の範疇〔視神経脊髄炎スペクトラム(NMO Spectrum Disorders:NMOSD)〕に加える。2015年にinternational panelが発表した改訂診断基準では病名をNMOSDに統一しており、この診断基準を用いてNMOSDを診断してもよい【2B+】。

日本神経学会 監修. 多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017. 医学書院, p109

International panelによるNMOSD診断基準は下記のとおりです。

International panelによるNMOSD診断基準(2015)

International panelによるNMOSD診断基準(2015) イメージ画像

Wingerchuk DM et al. Neurology 2015; 85: 177-189より作成

表 エビデンス

エビデンス総体の総括
A(強) 効果の推定値に強く確信がある
B(中) 効果の推定値に中程度の確信がある
C(弱) 効果の推定値に対する確信は限定的である
D
(とても弱い)
効果の推定値がほとんど確信できない
推奨の強さ
1 強い
2 弱い

文章の意図をよりわかりやすく伝えるため、行うことを推奨する場合には+(プラス)を、行わないことを推奨する場合には-(マイナス)を付した。

日本神経学会 監修. 多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017. 医学書院, ix