開発の経緯

ユルトミリス®[ 一般名:ラブリズマブ(遺伝子組換え)]は、ソリリス®[ 一般名:エクリズマブ(遺伝子組換え):以下、エクリズマブ]の誘導体で、補体C5に高い親和性をもって特異的に結合し、C5a(炎症誘発性アナフィラトキシン)及びC5b[終末補体複合体(C5b-9)の開始サブユニット]への開裂を阻害する、アレクシオン社が開発したヒト化モノクローナル抗体です。終末補体活性を急速かつ持続的に阻害し、投与間隔を延長して血管内溶血のリスクを抑えることを目的として設計されました。エクリズマブと類似した安全性プロファイルを維持しながら、エクリズマブよりも投与回数が少なくなるよう薬物動態/薬力学(PK/PD)プロファイルが改良されています。

エクリズマブ:終末補体カスケードのC5を特異的に標的とする選択的なヒト化モノクローナル抗体。

発作性夜間ヘモグロビン尿症(paroxysmal nocturnal hemoglobinuria:以下、PNH)は極めて稀で、進行性の生命を脅かす深刻な後天性の溶血性疾患です。PNHに対する治療薬であるエクリズマブはPNH患者の溶血を抑制しますが、一部の患者ではC5が十分に阻害されず、ブレイクスルー溶血のリスクや1)、血栓塞栓事象の発現リスクが再び高まることで生命を脅かすPNH関連症状のリスクが残るとの報告があります2)。したがって、全てのPNH患者で投与期間を通して溶血をより抑制する治療法が求められています。
ユルトミリス® は、米国においてPNHの治療薬として希少疾病用医薬品指定を受け、2018年12月に米国で成人のPNH治療薬として承認されました。また、2019年7月に欧州で成人のPNH治療薬として承認されました。本邦では、2016年より実施された日本人を含むPNH患者を対象とした臨床試験において8週間隔の維持投与で有効性及び安全性が検討され、2018年9月にPNHの治療薬として希少疾病用医薬品指定を受け、2019年6月に「発作性夜間ヘモグロビン尿症」を効能又は効果として製造販売承認を取得しました。

効能又は効果(抜粋)
発作性夜間ヘモグロビン尿症における溶血抑制

非典型溶血性尿毒症症候群(atypical hemolytic uremic syndrome:以下、aHUS)は、制御不能な補体活性化による内皮傷害を原因とし、血小板減少症、溶血、及び急性腎障害を三主徴とする極めて稀な疾患です。エクリズマブはaHUSに対する治療薬ですが、維持期は2週間隔(体重10kg以上の患者)又は3週間隔(体重5kg以上10kg未満の患者)での静脈内投与が必要です。
ユルトミリス® は、米国において2019年10月に、欧州において2020年6月にaHUSの治療薬として承認されました。本邦では、2017年より実施された日本人を含むaHUS患者を対象とした臨床試験において、4週間隔(体重5kg以上、20kg未満)、8週間隔(体重20kg以上)での維持投与で有効性及び安全性が検討され、2020年9月に「非典型溶血性尿毒症症候群」を効能又は効果として製造販売承認を取得しました。

効能又は効果(抜粋)
非典型溶血性尿毒症症候群における血栓性微小血管障害の抑制

重症筋無力症(myasthenia gravis:以下、MG)は神経筋伝達異常によって引き起こされる稀な後天性自己免疫性神経障害であり、自己抗体が神経筋接合部の受容体分子を認識することで制御不能な終末補体活性化がもたらされます。MGは筋力低下が全身に及ぶ全身型MGと眼の症状に限局する眼筋型MGに分類されますが、全身型MGでは神経筋炎症とそれに続発する臨床所見が全ての随意筋群に認められます。全身型MGの治療法としては、経口ステロイド、免疫抑制剤、血液浄化療法、免疫グロブリン静注療法、エクリズマブなどがありますが、利便性や治療患者の限定といった観点から十分ではなく、少ない治療・通院回数で症状を長期的にコントロールできる治療法が求められています。
ユルトミリス® は、米国において2022年4月に抗アセチルコリン受容体抗体陽性の全身型MGの治療薬として承認されました。本邦では、2019年より実施された日本人を含む全身型MG患者を対象とした臨床試験において8週間隔の維持投与で有効性及び安全性が検討され、2022年8月に抗アセチルコリン受容体抗体陽性の「全身型重症筋無力症(免疫グロブリン大量静注療法又は血液浄化療法による症状の管理が困難な場合に限る)」を効能又は効果として製造販売承認を取得しました。

本邦では一部のステロイド、免疫抑制剤及び免疫グロブリン静注療法にはMGの適応はない。

効能又は効果(抜粋)
全身型重症筋無力症(免疫グロブリン大量静注療法又は血液浄化療法による症状の管理が困難な場合に限る)

視神経脊髄炎スペクトラム障害(neuromyelitis optica spectrum disorder:以下、NMOSD)は、視神経炎と横断性脊髄炎を特徴とする極めて稀な中枢神経系の炎症性自己免疫疾患です。疾患の経過は予測不能ですが、再発のたびに神経障害が段階的に蓄積されていきます。血清中の抗アクアポリン4(aquaporin-4、AQP4)抗体が中枢神経のアストロサイト表面に発現しているAQP4に結合し補体を活性化することで引き起こされる補体依存性細胞傷害が主たる病態です。NMOSD患者に対する急性期の治療としてステロイドパルス療法、その効果が不十分な場合に血液浄化療法や免疫グロブリン静注療法、NMOSDの再発予防として経口ステロイド、免疫抑制剤、補体阻害剤のエクリズマブなどの抗体製剤などがありますが、頻回の通院や点滴静注の負担などの利便性の観点から新たな治療法が求められています。
本邦では、2019年12月より実施された日本人を含むNMOSD患者を対象とした国際共同第Ⅲ相試験において8週間隔の維持投与で有効性及び安全性が検討され、2023年5月に「視神経脊髄炎スペクトラム障害(視神経脊髄炎を含む)の再発予防」を効能又は効果として製造販売承認を取得しました。

本邦では一部の免疫抑制療法はNMOSDの適応はない

効能又は効果(抜粋)
視神経脊髄炎スペクトラム障害(視神経脊髄炎を含む)の再発予防

本剤については、10mg/mL製剤(ユルトミリス®点滴静注300mg)が承認されており、さらにその10倍の濃度である100mg/mL製剤(ユルトミリス®HI点滴静注300mg/3mL及びユルトミリス®HI点滴静注1100mg/11mL)の有効性、安全性、及び薬物動態がPNH患者を対象とした臨床試験で検討され、2021年8月に製造販売承認を取得しました。高濃度製剤を使用することにより点滴時間が短縮され、患者と医療従事者の負担軽減につながることが期待されます。

1)Brodsky RA. Blood. 2017;129(8):922-923.(PMID:28232621)
2)Hill A, et al. Blood. 2013;121(25):4985-4996.(PMID:23610373)